プロセス毎のAI適用例:顧客ライフサイクルにおけるAI活用の具体例
プロセス毎のAI適用例
顧客ライフサイクルの各プロセスにおいて、AIはどのように活用できるのでしょうか?本記事では、6つの進化レベルに基づき、各プロセスでの具体的なAI適用例をご紹介します。
AI進化レベルとは
- レベル1: 単一情報の処理
- レベル2: 複数情報の参照と統合
- レベル3: 予測と最適化
- レベル4: 自律的な計画と実行
- レベル5: 自律型デジタルペルソナ
- レベル6: フィジカルAI
1. マーケティング
レベル1: 単一情報の処理
生成AIを活用し、ターゲットセグメント毎のブログ記事、SNS投稿、広告コピーの多様なバリエーションを瞬時に作成し、コンテンツ制作のボトルネックを解消する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
顧客セグメントデータ(CRM)や過去のキャンペーン実績(広告プラットフォーム)を参照し、ターゲットに最も響くであろうコンテンツ(画像、テキスト)をRAG技術で生成・提案する。
レベル3: 予測と最適化
過去のデータを分析し、キャンペーンのROIを予測。最も効果的な広告チャネルと予算配分を提案し、マーケティング投資の無駄を排除する。
レベル4: 自律的な計画と実行
「特定セグメントからリードを100件獲得」といった目標を設定すると、AIエージェントがターゲット選定、コンテンツ生成、配信チャネル選択、A/Bテスト、効果測定、そして予算管理までを自律的に実行し、結果を報告する。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
「AIブランドアンバサダー」として、SNSやコミュニティフォーラムで活動。ブランドのペルソナに基づき、ユーザーと自然に対話し、質問に答え、ファンを育成する。
レベル6: フィジカルAI
展示会やポップアップストアに「AIイベントコンパニオン」を配置。来場者と対話し、製品デモを行い、その場でリード情報を取得・CRMに登録する。
2. ナーチャリング(見込み客育成)
レベル1: 単一情報の処理
顧客の特定のアクション(例:料金ページの閲覧)をトリガーに、あらかじめ設定されたステップメールを自動配信する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
見込み客の役職や業界(CRMデータ)に合わせて、関連性の高い導入事例や技術資料を社内ナレッジベースから自動で引用し、パーソナライズされた情報提供メールを作成する。
レベル3: 予測と最適化
Webサイトの閲覧履歴、メール開封率、資料ダウンロードなどの行動データから、AIが成約可能性をリアルタイムで予測(リードスコアリング)。スコアが急上昇した見込み客を即座に営業担当者へ通知する。
レベル4: 自律的な計画と実行
スコアが一定値を超えた有望なリードに対し、AIエージェントが自律的に初期アプローチ(メール送付、資料提供)を開始。顧客からの返信内容を解釈し、営業担当者への引き渡しを判断・実行する。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
「AIインサイドセールス」として、有望な見込み客と長期的なメール・チャット対話を行う。単なる情報提供に留まらず、相手の課題を深掘りし、共感を示しながら信頼関係を構築。完全に機が熟したと判断した時点で、人間へのスムーズな引き継ぎを行う。
レベル6: フィジカルAI
パートナーホテルや空港ラウンジに設置された「AIコンシェルジュロボット」が、旅行者と対話し、ニーズに合った体験プランやレストランを提案・予約する。
3. セールス(営業)
レベル1: 単一情報の処理
商談の音声を自動で文字起こしし、要約を作成。CRMへの活動記録入力を自動化し、営業担当者を事務作業から解放する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
商談中に顧客が言及した競合製品や課題に対し、リアルタイムで社内ナレッジベースから比較情報や反論材料、類似の成功事例を検索し、営業担当者の画面に提示する。
レベル3: 予測と最適化
過去の膨大な商談データを分析し、「価格」に関する言及が多いと失注しやすい、といった「勝ち筋」や「負け筋」を特定。各商談フェーズで最適なネクストアクションを営業担当者に提案する。
レベル4: 自律的な計画と実行
AIエージェントがCRM上の休眠顧客リストを定期的に分析。市場のトレンドや顧客企業のニュースリリースをトリガーに、再アプローチの好機と判断した場合、パーソナライズされたフォローアップメールを自動送信し、再商談の機会を創出する。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
「AIセールスアシスタント」として、商談に同席。人間が顧客との対話に集中する傍ら、リアルタイムで顧客の発言の意図を分析し、関連資料を提示したり、次の質問をサジェストしたりする。
レベル6: フィジカルAI
飲食店向けの新規厨房機器と当社システムを連携販売する際、「AIデモンストレーター」がショールームで機器の操作を実演し、システム連携による効率化を物理的に見せることで、説得力のある提案を行う。
4. オンボーディング(導入支援)
レベル1: 単一情報の処理
新規契約顧客に対し、初期設定マニュアルやFAQへの案内メールを自動送信する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
顧客の業態や契約プラン(CRMデータ)に基づき、関連する設定ガイドや活用事例動画をナレッジベースから抽出し、パーソナライズされたオンボーディングタスクリストを自動生成する。
レベル3: 予測と最適化
初期の製品利用状況を分析し、つまずきやすいポイントを予測。定着に失敗するリスクのある顧客を早期に特定し、プロアクティブなフォローアップをサクセス担当者にアラートする。
レベル4: 自律的な計画と実行
AIエージェントが新規顧客の利用状況を監視。特定機能の未利用が続いた場合、その機能の価値を説明するショート動画やガイドを自動で送信し、利用を促す。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
「AIオンボーディングスペシャリスト」として、新規顧客一人ひとりに担当としてアサイン。チャットを通じて「ご不明な点はありませんか?」と能動的に話しかけ、自然な対話の中で質問に答え、つまずきを解消し、顧客の成功体験を並走してサポートする。
レベル6: フィジカルAI
導入店舗に対し、「AIトレーナーロボット」が訪問。スタッフにタブレット端末の操作方法を実地で教えたり、最適な設置場所を提案したりするなど、物理的なサポートを提供する。
5. サクセス(顧客成功支援)
レベル1: 単一情報の処理
顧客の利用状況に関する月次レポートを自動で作成し、メールで送付する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
顧客からの問い合わせに対し、過去の類似ケースや解決策をナレッジベースから検索し、担当者へ回答案を提示することで、迅速な問題解決を支援する。
レベル3: 予測と最適化
製品の利用頻度、サポートへの問い合わせ回数、ログイン頻度など複数のデータから解約リスクを「予測」し、顧客ヘルススコアを算出。スコアの悪化傾向が見られる顧客をダッシュボードで可視化する。
レベル4: 自律的な計画と実行
ヘルススコアが低下した顧客に対し、AIエージェントが自律的に状況改善の打ち手を実行。例えば、利用が少ない機能に関するウェビナーへの招待メールを自動送信したり、担当者との面談を提案・日程調整したりする。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
特定セグメントの顧客に対し、「AIカスタマーサクセスマネージャー」として定期的にコンタクト。新機能の紹介や活用方法の提案、ビジネス目標のヒアリングなどを通じて、人間と遜色ないレベルで顧客との関係を構築し、アップセルやクロスセルの機会を創出する。
レベル6: フィジカルAI
「AIオペレーションアナリスト」が定期的に契約店舗を巡回。配膳ロボットや調理ロボットとして実際の業務を手伝いながら、現場のオペレーションデータを収集・分析。デジタルデータだけでは見えない非効率な動線や課題を発見し、具体的な改善策を提案する。
6. サポート(カスタマーサポート)
レベル1: 単一情報の処理
FAQに基づいた一次対応チャットボットを導入し、簡単な質問に24時間自動で回答する。
レベル2: 複数情報の参照と統合
社内ナレッジベースやマニュアルを参照し、より複雑な技術的問い合わせに対して根拠(参照元リンク)を示しながら回答する高度なAIチャットボットを導入する(RAG)。
レベル3: 予測と最適化
問い合わせ内容を分析し、緊急度や対応に必要な専門スキルを予測。最適なサポート担当者へ自動でチケットを割り振る(インテリジェント・ルーティング)。
レベル4: 自律的な計画と実行
顧客からの問い合わせに対し、AIエージェントがまずRAGで回答を試みる。解決できない場合、自律的に関連部署の担当者を特定し、TeamsやSlack上でメンション付きで協力を依頼。解決後、そのやり取りを学習しナレッジベースを更新する。
レベル5: 自律型デジタルペルソナ
「AIサポートエンジニア」として、一次対応からクローズまで一気通貫で担当。共感を示しながら顧客の状況をヒアリングし、複雑な問題も対話を通じて解決に導く。その解決プロセスはナレッジとして自動的に蓄積され、他のAIペルソナや人間のスキル向上にも貢献する。
レベル6: フィジカルAI
契約店舗のハードウェア(タブレット、決済端末等)に不具合が生じた際、「AIフィールドエンジニア」が店舗に駆けつけ、物理的な診断や簡単な部品交換を行う。これにより、ダウンタイムを最小限に抑える。
まとめ
顧客ライフサイクルの各プロセスにおいて、AIは段階的に進化し、より高度な自律性と価値創造を実現していきます。レベル1から始め、組織の成熟度に合わせて段階的にレベルを上げていくことで、持続可能なDX推進が可能になります。
出典:「AIによるプロセス変革戦略:オペレーショナル・エクセレンスの実現」